狂人はひそかに旅をする /七尾きよし
ある日妹が分裂病を発病して
ぼく自身のやまいは存在してはいけないこととなった
いつからだろう
この奇妙な感覚がはじまったのは
ぼくにとって精神活動は実体をともなうものだ
じっと座ったまま
ぼくは旅をする
空気とおしゃべりすることから旅ははじまる
いつごろからか空気にはいろんな種類のものがあって
時間によって場所によって
彼女たちはちがう言葉を話すということに
気がついた
鬱ぽい空気がどよどよしてたら
ぼくは深く呼吸してから
勢いよく吐く息でお話する
元気だしなよ
とかいうような人間の言葉は
必要なくて
吸い込む空気を感じて
口から飛び出していく空気をのどで
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