殺してください/佐々宝砂
 
私の部屋には通り者が出ます。
半透明の身体に半透明の武具をつけて
ゆらりゆらりと私の部屋を横切ってゆきます。

私はかれを放っておきます。
かれの半透明の武具が鈍くひかるとしても。

そして私はいまひとりです。
六月の半端な肌寒さがじんわりと沁みます。
さっき飲んだばかりのあたためた牛乳が
胃の中で自己主張します。

窓をあけてみます。
風のない夜ですが晴れています。
星はいつものように空にあって私は少し安心します。
満天の星空に通り者がゆきすぎます。

今を逃すともう機会がないような気がします。

私を殺してください。
あなたが好きです。
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