「蝶」/広川 孝治
 
あの庭先に飛び回る蝶がずっと欲しかった
ひらひらと
花から花へ
気のむくままに飛び回り
奥に密んだ花蜜
いともたやすく味わって
およそこの世で受けられる歓喜を全身に漲らせ
明るい陽射しに満たされた
空間を踊るあの蝶を、僕はずっと欲しかった

地を這う僕は芋虫で
葉陰に隠れてコソコソと
草木いためつけ生きてます
可憐な花に憧れて攀じ登ったは良いけれど
どうしていいかわからずに
結局花弁を喰い尽くし
しおれさせてしまいます
見上げる空は蒼ざめて
降り注ぐ陽は突き刺さり
ただ葉の裏に身を隠し
意気地なく身をよじらせる

あの庭先で飛び回る蝶がずっと欲しかった
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