アンソニーの忘れもの/竜一郎
とができるようになるツールだ。ぼくにはまだ観ることができていない。だから、」彼はいつも言いかけて途中で止めてしまう。私はあえて先を促すことはなかった。別の話に入り、そこには戻らなかった。
彼は終わらせることをひどく怖がっていたんじゃないか、と、私は思う。もちろん、だれもが終わらせることを望んではいない。彼はそれが人一倍大きかったのだろう。
ところで、アンソニーの作品に完成した作品はない。アンソニーは、「永遠の未完成」への求道者だった。ぼくは彼の良き理解者になれなかった。それでも、彼の作品をぼくが引き取ることになった。時々、彼の娘がやってきて、絵を観てゆく。彼女は、突然、「エデンは燃えて
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