不感症の夜に/望月 ゆき
 
指をとって
指きりのしぐさで笑わせた あのひとの
口ずさんでいた歌も
もう忘れてしまった
記憶の隙間には いつしか
砂が、咬んでいて
あたらしい毎日を保留にしている




防砂林をすり抜けて届く
かすかな振動が
わたしの皮膚を起こして 徐々に
不感症の夜が明けていく
見上げた景色を切り取ると
空の手前に電線がゆれていて
それは
行ったきり帰らない音が
のっていた五線譜の空白に
よく似ていた

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