丘に立つ/夕凪ここあ
 
丘に立つ
ただ背伸びばかりして
何にも手が届くことがなくても、
輪郭を名乗っていた頃より 透明がはっきり見えるようになりました
透明を知った私は、そのかわり
色が体の底のほうに溶けていって
もう 二度と夕暮れには出会えない、

声はすっかり風にかわって
私の行きたい場所へは届いてくれずにまた溶けてった

手紙が、まだ私の手元に残っていて
透明に染まる前に せめて断片でも届けたい祈りは
あなたの耳のすぐ後ろを通り過ぎたって 
ささやきほどしか聴こえない

あの頃より少し痩せた指先が、
あの頃と何も変わらない優しさが、
私の描いたスケッチが少しだけぼやけ始めて、

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