地蔵前/みつべえ
もの。世をはかなんで自殺でもされたら大変とあたしは思ったわけよ」
ノンは耐水の腕時計をはずすと時刻が見えるように調整しながら岩の上においた。それで身につけているものは持ち込んだタオル以外に何もない。
「でも、この町に近づくにつれてユカリったら目に見えて元気になったのよ。東京ではいまにも死にそうな顔していたのに」
「この町にはね、不思議な力があるの」
「不思議な力? あたしには辺境を売り物にしているただの観光地にしか思えないけど」
「ううん、そうじゃないの。去年の夏休みに伝承の採集に来たとき、あたしはたしかに感じたの。現代人が歴史の片隅に押しやった不合理な力をね」
「不合理な力? へえ
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