地蔵前/みつべえ
も朝の挨拶。
地蔵は鼻の穴を大きく開いて少女のあまやかな口臭を嗅いだ。ライオン歯磨き粉の匂いがした。
「なんだか首のところが寒そう」
トモコは襟巻きをはずすと地蔵の首に巻きつけた。「バスがくるまで貸してあげる」
それから照れくさそうにカバンからリボンの付いた包みを取り出した。
「なあんだと思う」
手にもった包みを地蔵の目の辺りにチラチラさせた。地蔵はまた思いきり匂いを嗅いだ。なつかしくて甘い匂い。チョコレートだ。
「あたしの手づくりよ」
トモコは地蔵と同じ目の高さにしゃがんだ。するとコートの裾がずり上がって制服のスカートの端が顔を出した。地蔵の眼前にトモコの大きな瞳があっ
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