地蔵前/みつべえ
ここは何処でもないところ
かつて私が暮らし
いまも 少年の私が
棲んでいる町
※
森の向こう側へ大きく曲がっている道なりにトモコが姿を現した。固い雪の面をキュッキュッと踏み鳴らしながら歩いてくる。紺色の厚手のコートにオレンジとイエローの襟巻き。テキストをいれたカバンには鈴のアクセサリーが付いているらしく、彼女の身体が道の起伏に揺れるたびに可愛らしい音をたてた。
「お地蔵さん、おはよ」
トモコは白い息を吐きながら地蔵のツルツルした頭を二、三回かるく叩いた。朝の挨拶。
「今朝はすごくシバれたのよ」
言いながら白い息をわざと地蔵の顔面に吹きつけた。これも朝
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