ララパルーザ/Tora
日射病の前頭葉をハンカチで拭いながら
反り返ったガザミの匂い縫い込んだサラリーマンが垂らす竿の
その先280km一日遅れで新聞を読む人々の住む孤島から
おいこらせとやってくる老婆の背負い籠は80kg
魚は全て死んでいるのだし
仲間も皆墓石のように冷たい
いつものように3番目の街頭の下に風呂敷を広げ
潰れたカサゴのような体をはめ込み終えると
老婆は項垂れたまま小さく「買わんねぇ」と息を吐いた
老婆には脛が無かった
時折爆風のような排気ガスが老婆を襲うが
茶菓子にもならんばいと言いたげな眠そうな眼で
薄らぐスモッグめがけてただ「買わんねぇ」と語りかけるだけだ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)