黒の刻 ?井上泰昭展『黒の刻』に寄せてー/狸亭
 

明るすぎる現代風景の空洞
もう失われてしまった闇をさがして
黒い色彩をもとめて彷徨(さまよ)う街道

あそこにもここにも光りだけがあふれて
いつのまにか当たり前になってしまった
明るい町 明るい村 人群って

闇が無いのに いかにして光を知った
ヒロシマ・ナガサキをいっぱいにした光
過剰な明るさから逃れ 波羅蜜多

此岸から彼岸へ 救いを求める祈り
快適な明るい暮しの陰の 寒い
こころに吹きだまる闇こそが薄くなり

アッケラカンの明るい顔たちの報い
あの太古の暗さの中に逃れ
ほんとうの真っ暗闇に纏う黒衣

万物(もの)皆 闇から生まれその闇に紛れ
やがては消えてゆくことを知っていながら
なぜか『黒の刻』の豊穣に気後れ

凝視の果てに滲み出る黒曼荼羅


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