「 抱擁 」/椎名
 
砂が零れ落ちるように
水が流れていくように
その行きつく先を認知して受け入れよう

今あるこの命に限りがあることを
認めそして求めず
可能な限りのものを見
感じ
感動したい

何かを残そうなどと思わず
何かを得ようなどと思わず
ただ
生きていることに感謝して

いつかくるであろう最後
砂の落ち行く先
水の流れ行く先
そして命が終わりを告げる
そのときを
笑顔で見つめられるなら
きっと
生まれて良かったと
思えるから

全てのものを愛し
全てのものを受け止め
可能な限りの愛を与えたい

広げられた両の腕に
この身を預け
天から授かった乳房を与えたい

その瞬間に
全てのことが意味を無くし
全てのことが自然なことだと
思えるから

夜明け前の
静まり返った街
羽化したばかりの蝶が
羽を広げる寸前

全てが
輝き始める寸前の
あの静けさが
この胸にひろがる

意味などいらない
理屈など必要ない

生きている
ただ
それだけ


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