そして海は濁っていった/岡部淳太郎
そして、
海は濁っていった。青黒く、あるいは黄色く、
濁ることで海はひとつの予兆を示した。水平
線までの正確な距離をはかろうと、漁師たち
は考えをめぐらせ、砂浜で睦み合うだけの恋
人たちは、何も知らずに浅い夢を見ていた。
そして、
潮は高いままで止まってしまった。水は堤防
ぎりぎりまで物事を隠し、秘めた殺意を暖め
ていた者は、その思いを深く潜らせたまま、
明日の殺戮を思ってふるえた。魚の体のよう
に平板な意志のままで、人びとは網の結び目
のひとつひとつを、丁寧にほどいていった。
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