「なんと違うことだろう」/広川 孝治
なんと違うことだろう
二年間寝たきりの祖母が他界した
94年の生涯を自宅で眠るように閉じた
涙は流れなかった
葬儀はしめやかに営まれ
その後遺体は火葬場へ
焼かれる間に親族は
酒を飲みながら近況を語り
久闊を叙しながら時を過ごす
火葬場にふさわしくない笑顔と声が
異質な空間を彩った
涙は流れなかった
やがて骨を拾うため
変わり果てた祖母のもとへ
頭骨の黒ずんだ部分を指して
「ここが悪かったとこですか」
係りに尋ねる母に失笑
言われるがままに骨を拾い
最後に頭骨を割って重ね
骨壷は祖母のかけらで満たされる
涙はやはり流れなかった
その後の予定
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