去年の春のこと/はな 
 

きょうのそらには
魚影のように


ちいさなこっぷに
互いにふざけあって
わらいながら
しずかな歌を吹き入れた
とうめいに
がらすのむこうがみえないほどに
きすしようかって
ちいさな声でつぶやいて
あなたがまた 
わらえば 好いとおもった

はじめて浴びた雨をおもいだしている
凝縮されたせいめいのなりたちみたいに
むかし、
あたしにはおひれなど
なかった


みあげたそら、曇り
まっ白に
うすはいいろのくうきから
こぼれおちてくるむすうのものは
雨よりも、少しかんざしに似た
こはくいろを 
していた




幸せを
手あたりしだい しずかにあつめる
そうしてうしなったものと
枝を伸ばしてゆくものを
ことしのはるに 空へと放つ


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