マトス (ショートストーリー)/よーかん
「マトスのどちらが好きですか?」
唐突に隣から声をかけられた。
マトス?
僕はコーヒーカップを唇のそばに添えたまま隣の男に視線を向けた。
四十後半、あるいは五十代のくたびれたグレーのスーツを着た男が柔和な瞳で僕を見ている。
「あの?僕ですか?」
無視すりゃよかった、そう思った。
「はい、マとスのどちらがお好きですか?」
禿げ上がった頭を横にわけている。
クロスワードパズルのヒントを友人に聞いているような、校長先生が廊下でたまたま会った生徒に名前を聞いているような、そんな態度だ。
この人なんなんだ。
僕は固まった。
「マ、と、ス、ですか?」
好奇心に負けた。
やめればいい
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