冬の朝/鈴木(suzuki)
 
手袋を着けて自転車にまたがる

ゆっくりと
寒さに耐える体の震えとともに

ゆっくりと右足からこぎ始める。

長く続く下り坂を走ると

耳が風に切り裂かれて痛く

その数秒の風景はくっきりと

僕のまぶたに刻まれる様に

朝の登校する小学生を走りすぎていく。

寒く、とても寒く

手袋に空気が染みこんでくる頃

最後の上り坂にたどり着くと

精一杯深く息を吸って

感覚が麻痺した指先でハンドルを握る

スローモーションの全てが

僕の頭を吹き飛ばすぐらいに通り過ぎて

やわらかく風景の一部に溶かされる頃

坂を終わりまで登り切るんだ

その頃には、道を行く生徒達も少なからず

同じ道を行きながら、僕は息をゼーゼーと

熱く火照った体を自転車に傾けて

ただ、なんとなくその風景が嬉しくて

制服を着た僕は学校に通ってる。
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