冷たい春/前田ふむふむ
 
き摺りながら
唾さえ出ない口で、乾いた砂粒を噛もうとしている。

幼かった頃、失われた純白の月が、
かならず見えた懐かしい場所に立って
悔悟のおもいを、行く先の見えない脳裏に、描いても、
槍のように尖った雨は、
わたしの衣服を突き破り、冷えている青ざめた肌を
滲んだ血で書いた古びた日記の切れ端の紙に変えてゆく。

わたしは、この春を、
美しく雨の中に咲く桜の花を
溢れる涙のはく膜で、ろ過しながら、
挫折した春を今年も見なければならないのか。

未来の呼吸を頑なに遮断している、春の雨を
この細く、やつれきった手で、掻き分けても
わたしの手には淀んだ赤い血液すらも掴めない。
唯、もがくばかりの、指先に
すれ違うわずかの暖かい季節の眼差しが、諦めるなと呟く。

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