喪失?失われるとき/前田ふむふむ
 
見送るものは、誰もいない。
錆びれゆく確かな場所を示す
冬景色の世界地図を
燃やしている過去たちが、東の彼方から孤独に手を振る。
知らぬ振りをする眼は、遥か反対を伺って、
不毛な距離をあらわさない、すすり泣く静寂のさざなみが
過ぎてゆく春の揺らぎの中を
硬直する真昼の荒野で瞬いてゆく。

むかえるものは、誰もいない。
絶え間なく律動する、縮まりゆく、そして絶えてゆき
砂粒へと綻びる、帰りのない飾り立てた一本の直線の道を
過ぎて行く人々のざわめきで塗された気配と
白い木の葉が落ちる透明な街路樹に差す光線との
空隙の中を、止め処なく走り抜ける暗闇の青さが
冷徹に切り裂いて
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