花売り/篠有里
あのひとは花を売るのをやめて
いったいどこへいったのか
わたしがそこへ訪ねていけば
ガラス張りの木枠の中
古いミシンが1台切り
道路の上の毛皮のように
カラスに喰われて
何もない、わたしの中身
どこにもいけないと思えたその時
やはり聞こえてくる、あの音
さざめくしじま(・・・)
ひそやかに死に絶えた道路のひび
なぞりつつ広がる私の背後に
あのひとがせまってくる
流れゆくわたしが
何故と問う、その隙に
確実にときは過ぎゆく
すべての出来事
したたりおちる結果
わたしの脳内のひみつの一つ
あのひと
あのひとはいったいどこへいったのか
わたし、そしてやはりわたし
かたことと音もしない
そこ、壊れた機械
花を売る事をやめて
わたしはいったいどこへ流れるのか
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