苺宵/銀猫
 

スプーンの背で潰した苺から
紅が雲に届いて夕焼けになる


静まれ  しずまれ
桧扇を広げて
漆黒がそこまで来ている
上着の釦をもうひとつ閉めて
心して迎えよ

静電気をちりちりと帯びる恋の想いや
日向でぱつぱつ弾ける蕾の声を
ひと息に呑み込む夜がやって来るのだ


おずおずと触れた苺の
瑞々しい凹凸は
ときめく唇に似ているが
惑うな  惑うな  その赤に
甘く酔い痴れた先には
生と死の泣き笑いが待っているのだ

静まれ  鎮まれ
真昼の供宴に惑わされることなかれ


生命の始まりと終わりが
赤い色であったことを
奥歯でぷしゅりと噛み潰せ


おまえもひと粒の一期だったのだ




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