水色ガードレール/なつ
 
この先は、記憶に住まうちいさな村です。

まるい形の標識があらわれたので、わたしは
あこがれの物語を
指先でなぞるときのように、目を閉じてみました。 
水色ガードレールの
はしっこに寄って歩くと、
いつもよりひろい余韻が
くらくらするほどに香ります。
この帯状の空間の
ひとつ、ひとつの粒子が
ばらばらに、それでも
内側のなにかを呼びさますように
泣いているので、
森までも想いは浸透して
水色ガードレールがかすかにふるえるのが、分かりました。
しかし、自然とこわくはありませんでした。

見えない視界の奥のほうには、
ちいさな村の輪郭が
かがみのように浮かび上がります。
水底の階段にさしかかり、
徐々に道幅もせまくなってゆきます。
それでも、自然とこわくはありませんでした。

やがて、せんさいな鎖骨や、耳たぶの、温度が
センサーのように反応して
泣き声に共鳴しはじめます。
不規則だった声たちは
なつかしい名前の響きに、重なって
すこしずつ、すこしずつ
手のひらのなかの
水色ガードレールにもなじんで、ゆきます。
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