かなしみ/前田ふむふむ
 
わたしは、かつて海水がない渇いた海原で
孤独な一匹の幻魚の姿をしていた時に見た、
色とりどりの絵具をすべて混ぜ合わせたような
漆黒の夕暮れの中で、朦朧として浮き上がる白骨の黄昏と
共鳴していたかなしみを、無音の慟哭の声を上げて、
今日も抱きしめている。

赤茶けた砂漠の、絶え間なく変わりゆく文様のように
こころは激しくゆれているが、忽ち、
凡庸に静まりゆく湖面にすがたを変える、
その慌ただしき曲折。みずうみには、誰にも知られずに、
わたしの許されざる過去が沈んでいるだろうか。
わたしは、気がつけば、即興的に濃度が決められている
気紛れな塩水が溶けているこの乾涸びた精神を、
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