迷彩/英水
「理由」
今、また飛び立っていった
その跡地に残っている匂いを慈しみ
つま先に少しだけ残った春を払い落とした
することもないので、踵の重さを告白する
あなたが、立ち尽くしていた沁みが、影を落としている
その靴の輪郭を 叫ぶ
今、また飛び立っていった
行き場を失ったガブリオレが紫のチョークであることをさらけ出し
タイヤの溝を流れている距離が、あなたの濡れた髪にへばりついていた
その深海魚のような距離が、水の距離が
芽吹くことを忘れた声を通過する
「鈍痛」
背中が 痛みますか?
通勤途中の混雑の中で、ふいに囁やいたあの女は
僕を
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