まぼろし/なるせ
 
小鳥が啄むような

くちづけ

もう

きみがいない





ふたつ連なったベンチ

あれがどこだったのか

思い出せないけれど

きみの左腕の温度と

どこまでもとうめいな笑顔は

呪文のように途切れない





やわらかな闇の中で

互いをたぐり寄せながら

その頬に手をあて

つめたいなって笑いながら



こぼれる涙のわけは

きっと痛いくらいの幸福だと信じた



小鳥が啄むような

くちづけ

きみが









きみが






いないなら



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