観察者(1)/篠有里
き続ける事を強制される。許して不可視の観察者。
背を反らして力の限り歌う、早く解放されたいと願い、話せる事全てを今ここで吐きだしてしまおうと今だけの物語を練り始める。私は嘘をついていない。目を閉じて、自身を保つために紡ぎ出した昨日と今日。
泳ぎ切った男が何処へ行ったのか、復唱、その建物の先には何があるのか、うたごえ、うたごえ、内部から聞こえる歌声。そして奴。私をこれ以上見ないでいてくれるのならば、何処にも行けるはずもなく、その予定もない。見るべき物を見る事もない。うたごえの主をさがす旅にでるのは、やはりうたうわたし。
逼塞をもたらす誰かの白い服。明日、同じ時間にまたここで。約束だけ。緑のラインに従って進んで、また同じ明日への切符を買う。濡れた足跡を付けながらいつも通りお部屋に帰って寝る。観察者が悲しく私の傍らに。さあ、つぎ。そう、見えないはずの物よりも、見たくない物が見える。
ああ、わたし、ああ、歌声、許しを請う、たくさんのにくしみ、たくさんのにんげんのうたごえが、聞こえる。みんな苦しんでいる。
そして、私の円形の視覚のその中に、観察者が再び現れる。
戻る 編 削 Point(1)