壁を見ていた/クリ
 







僕は壁を見ていた
見ていたのは漆喰のくすんだ壁で、成層圏まで達するにはもう少し
何も、落書きがあったわけじゃない
ただ壁のひび割れをなぞっていた


一度だけでもいい、会えたなら他のものはすべて捨てていい、と思っている人物が
僕の実家にふらりと来ていた
僕は、やせ我慢した
「俺は、そんなに安っぽい人間じゃない」と
そうして、見て見ぬふりをした 「あんたなんか、ほんとは眼中にないんだよ」と
そうするうちにいつの間にかその人はいなくなっていた
僕は焦った
まだその人が出てから3分も経っていない
追いかけよう、と思った
『後悔』する、と
僕は、
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