水平線の先の/夕凪ここあ
 
夏の日 帽子を残して
水平線の先が見たいと少女は

夕焼けが水面を染める
裸足で砂を踏みしめると
体温によく似ていることすら
知らないまま

空との区切りが曖昧だから
触れてはいけない 細い線に手を伸ばしてしまった少女の

名前も忘れかけた夜に
優しい潮の匂いにあの日の音がした

散らばった砂の粒のような銀色の
点と点を結んで少女の名前にしてみた
忘れてしまった一部はあの日
少女が連れてってしまった
水平線の先の 

私はもうそれきり空を見ず
あれはただの宇宙 見えない

夏の少女
水平線の先なんて知らないままでよかった
先なんて空なんて曖昧を知らないでよかった
ただ裸足になれば繋がれるのに

水平線の先が見たいと少女



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