健康/本村K
わたしは幸せになりたくて
ある日を境に
考えることをやめた
わたしは幸せになった
嫌なことがあっても
多少はスルーできるようになった
わたしは幸せになった
自分に正直になった
何かに怯えることもなくなった
わたしは幸せになった
思想云々と言わなくなった
もしかしたら言葉が軽くなった
気持ちが軽くなって
言葉も軽くなって
わたしは
詩が書けなくなった
生ぬるい幸せに肩まで浸かり
弱り切った腕でたどるのは
もはや言葉などではない
誰にも知れぬ暗号だ
わたしはもしや
とんでもない過ちを
犯してしまったのかもしれない
代償を払って
手に入れた健康は
今ごろ大地を
かけずり回っている
夢中になって
言葉さえ忘れるほどに
わたしは自らの心身を
甘やかしすぎたのだろうか
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