僕が生きる理由のひとつ/麻草郁
 
あるところに犬をたくさん飼っているおじさんがいる。

テレビの取材をうけたおじさんは、インタビュアーに言った。
「だって犬が死んだらかわいそうでしょう」
「犬、お好きなんですか」
「あんいや?嫌い」
「嫌いなのになんで飼うんですか」
「人間のどんなに憎い奴でも死んだら嫌でしょう」
捨て犬の世話をしてるおじさんのもとには、捨て犬みたいなおじさんが集まって、犬の世話をしている。
インタビュアーが質問する
「お給料は月にいくらですか」
「んあ?もらってねえよ?」
捨て犬みたいなおじさんは、嬉しいとも悲しいともつかない顔で答えた。

ぼくはこの話が好きだけど、世の中にはあまり知れ渡っていない。
捨て犬のことを悲しげに書いた本は何万部も売れたけど、このおじさんにお金を払う人はいない。
僕は、ドキュメンタリーで見たこのおじさんたちが今どこで何をしているのか、知るすべを持たない。

世の中はほんとうにくだらなくて、死にたくなるけど、きっと僕が死んだら、おじさんがどこかで、しょんぼりする。
だから、死ななかったり、がんばったりする。
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