夢を語る行為/篠有里
 
し回るけど、家も家族も妹も見つからない」
彼女は記憶の反芻を深くする。
より昏い場所に移行するために、強く目を瞑る。
そうする事によって悪夢の根本に立ち返ろうとただ一度だけ試みる。
「でも私はもうあのことは思い出したくないのよ」
「あの場所も」
「何をしてもみんな私を知っている、狭い、狭い世界」
もう終わった事なのでどうでもいい、という事にしたい彼女がいる。
望まない記憶の反芻は、その中に余分な主観と後付けの理由が加味され、
真実は遠い川の向こう側に逃げ去っていく。
彼女は再度暖まった布団から腕を出す。
「夢の中だから妹も生きているし」
「やっぱり家が無くなると私でもこうや
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