「箱の中の猫」/篠有里
 
もしあなたが箱に帰れば、そこには誰もいない。
立て付けの悪い扉は、また今日も軋んで、耳のどこか奥を刺激する。
熱く匂う空気で染められ、空気には動物の匂いが染みついて何とも言えない。
どこまでも湿って、にごっている。
それが私の家。

くだらない思いはとにもかくにも扉の向こうに置いていけ。
さてどうした事かと、私は靴の砂をはらってから家の中に入る。
ただいま。おかえり。
やっぱりどうしてなのかな、と、考えても答えは出ない。
考える事をやめないでどうにか自分を納得させようと試みれば、
すぐに思いつくひとつの解決。
多分きっと私以外の家族全員で、
猫の死体を埋めに行ったに違いな
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