「祝祭の夜」/プテラノドン
キリストの父親である男が、玄関の扉に磔となって帰宅する。
彼の三歳になる息子の「オモチャ!!」の叫び声が、戸棚の奥に隠されていた
ぬいぐるみの、スヌーピーのキンタマの後ろ、階段裏の水道管のなかで
眠っていた水たちを叩き起こした。そして今夜、蛇口という蛇口から悲鳴が漏れる。
辺り一帯が水に浸される。氷像となる家々。
―おお、隣人よ!水のように眠る少女は今夜も、取っ手の欠けた
ティーカップに「残っている限りは」と、紅茶を注ぎいれるだろう。
彼女と同じく、物質の意義も成長する。大きくなるという意味ではないにせよ。
カップから立ちのぼる湯気は、彼女自身の熱でありながら
いつだって 母親のように彼女を包み込んだ。そして部屋の外では、
何千もの親たちがタイミングを計る所では…
窓枠にへばりつく天使が子供たちの寝息にハミングする処では…
薄っぺらな紙が持つ静けさのなかで夢みる処では…と、そこでは
片っぽの靴下が転がっているだけである。
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