よるはなし/夕凪ここあ
 
あの人が
行ったっきり 帰ってこない
消えそうな足跡を辿っても
いつだって
私の足元に戻るばかり。



夕暮れに佇むと
二度と動き出せない気がして
振り返ることもしない
あの人はきっと
立ち止まってしまったのだ
あの日。



夜中
こわい夢を見た
といくら起き上がっても
夢だから忘れてる すっかり
そうして眠りについても
また目が覚めるだけ。



買い物帰り
よれた小道が目にとまる
音を忘れてしまった小道
に迷い入ってしまったら
きっと戻れはしないから
だけどあの人は
あそこにいる気がした。



確かめようと
足跡を辿っても
いつものように足元に戻る
今日も。



眠る前に
枕の下を覗くけれど
手にとったはずの
今日はどこにも見当たらない
同じように
明日も昨日もあの人のことさえ
見つけられなかった。


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