空間状のひと/A道化
プラットホームの青いベンチの背もたれには
落書きをこすり消したような跡があります
飴玉を失くした包み紙には
ミルクという文字があります
先頭車両の風に振り返るも、風ばかり
最後の車両の跡を凝視するも、風ばかり
いつからか掻き消され始め
いつしか掻き消され終わり
風ばかり、が、
私のいる、
空間ばかりを目立たせる風が、今です
風ばかりの目立つ空間が、ここです
かつての悪戯のことを忘れて誰かがきちんと成り立っているとしても
青いベンチの背もたれにはもう読み取れない落書きの跡しかありません
確かなミルクが融けて消えるとき誰かの役に立ったとしても
飴玉を失くした包み紙にはもうミルクという文字しかありません
先頭車両の風に振り返るも、最後の車両の跡を凝視するも、あなたは
かつて私からの言葉だったものは
かつて私への言葉だったものは
風でしか、
風でしか、
ああ、
私のあなたは、もう
空間でしかないのでした
2006.3.16.
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