アリシエール/夕凪ここあ
 
アリシエール
 私に声はない
 ここから動けもしない
 空っぽの体の中心に
 それでも心は一人前に持ち合わせてる

アリシエール
 私は綺麗な淡い色のスカートを
 ひらひらとなびかせることがなくても
 こうして紅茶の匂いを纏っては
 いつだって心は満たされていた


 古ぼけた紅茶屋の机の上で
 だんだん時間に飲まれてく

 アリシエール

 いつだってあの人が呼んでくれて
 私を抱き上げてくれました
 あたたかい手
 私の手はきっと冷たいことでしょう
 あの人が一度だけ泣いたあの日
 声を持たない私は ごめんなさい と
 何度も心で泣きました

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