卒業/岡村明子
ほどけた靴紐を結びながら走った
朝はいつも苦手で
腕組みしている先生の顔を見ないように
校門を駆け抜ける
一時間目から六時間目まで
机に突っ伏して眠り
部活だけはさぼらなかった
そんな中学時代
暗くなった校庭を一人で歩く
家の明かりは恋しくなかった
誰かに必要とされているとすれば
それはまだ見ぬ人であろうと
地球の重さを背負いながら思った
星は無限にそこにあった
世界が何かを知るために
私は勉強しなくてはならなかった
人はもっと目の前の勉強に忙しかった
凍えた手をあたためてくれた人もあったが
人の優しさを信じることはできなかった
誰かを受け入れるためには
誰かを信じなければならなかった
そしてなにより
自分を信じなければならなかった
ひとりだけ
ゆがんだ廊下を歩いていたようなあの頃
誰も嘘をついていなかったのだということを
いまさら知ったとして何になろう
卒業してしまったのだから
アルバムは少しずつ
美しい伝記に変わってゆく
街ですれちがってももう会えない
世界は未だ
不可解な手触りで目の前にある
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