8mmフィルム"E"/人間
 
こえなくなる

 夜は おとなしく私の真似をしていればいい それでいい

放置された軽自動車は末期の胃下垂で
惨憺たる世迷言を 自らの轍に流し込んだ 後で
私が同情して 窓に手を置くと
中では半裸の男女が 産業革命の真っ最中で
だから 私はますます同情してしまって
見て見ぬふりを したまま
酒瓶に鳴る ちゃぽん
ちゃぽんは足音を愛す

 どこまで歩けば 情念は途切れるのか

視界に入る光は 減衰していって
いよいよ視界は 出来る限り深くなる
生命の出すような 独特のナマ臭さは 下方に 遠退いていく
クロム製ヒキガエルの寝息だけが 上方に 聞こえる
情がかかって
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