壁 デッサン/前田ふむふむ
に遅れてきた。
涙を流してかなしい顔をしていた父さんは、今頃まで何をしていたのだ。早く席に着きなさいという。
僕は香典袋に名前を書こうとすると、父さんは自分の名前を書いてはだめだと、涙を流したこわい顔をしていう。どうしてだめなの。自分の名前でなければ、僕の気持ちはどうなるの。父さんは筆を取ると強引に、全く知らない人の名前を、書いてこれを出せという。
どうしてこれじゃ、僕が香典を出したことに、
ならないじゃないの。僕には香典を出す資格がないの。僕は悲しくなって祭壇の方にすすんだ。
でも、いったい誰の葬儀なのだろう。
そうだ、父さんはもう十年前に死んでいるのだ。母さんと妹たちが見当たらない
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