キッチュ・バルーン・パラダイス/角田寿星
 

ハイハイもろくに出来ないくせに
うつ伏せで 思いきり上体を反らして
ぷかぷか浮かぶ風船に目を輝かせているのだ
どうやらハシカが移ったらしい

ぼくがまだ ユキくらいの年だったろうか
天井の高いホテルの一室だった
持っていた風船をつい 放してしまって
火が点いたように泣きじゃくったことがある
155cm 80kgの叔父は まだ若くて
テーブルの上に椅子をのっけて
高い白い天井の上端 みどり色の風船を
ふうふう言いながら取ってくれたっけ

ぼくは大きな風船を持って
そんなことを思い出して
駅前の低い空を見上げる
子供たちの歓声 天使のふわふわ
産声をあげたメリー
[次のページ]
戻る   Point(2)