身体の物語/アンテ
 

                                 (喪失の物語)


一人きりで出かけることのないよう
常に用意周到に手筈を整えていたのに
この日に限って
使える者はだれも押さえられなかった
彼女がこれまでまだ
地面に沈み込んだことが一度もなかったのは
ふだんから家のそとを極力出歩かず
慎重に確かめた地面しか踏まないおかげだった
彼女があきらめて一人で外へ出ると
雲行きはあやしく
他に人の姿はまったくなかった
杖で地面を確かめながら一歩ずつ進み
道すがら
どっぷりと地面に埋もれている人に出くわすたび
巻き込まれないよう回り道をしたせいで
いつ
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