さびしい海辺の光景/前田ふむふむ
 
もえる悲しい海の性たち。
     時が叩頭するまで、海よ。泣くがいい。
灰色の無慈悲な空も、わたしと一緒に泣くだろう。

広々とした海水浴場だった浜辺の上に、海の家の廃墟が息をしている。海の香りで泥酔したその家の男が、海から打ちあがる塵の瓦礫たちを、ひとつひとつ丁寧に、拾い集めている。苦悩の人生を束ねたような男の背中は、悲しみに溢れる海を泳ぎだすようだ。
海の胎内に宿る見えざる眩い雫を求めて。

   海よ。燦燦としたひかりの舞踏よ。
静かに打ち寄せるエメラルドの波よ。
  恋人と走ったあの、あたたかい海辺よ。
白いカモメたちよ。
夏と楽しく遊んだのは、いつだっただろう。

わたしは始めから、気づいたのだ。
最初からこのさびしい海を見ていなかったことを。
美しい過去が眼の中で涙となって、
溢れだしていたことを。


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