天のほとりで /暁の脈が早まる/水無瀬 咲耶
 
抜けてゆくばかり

荒れ狂う冬の夜 私は金属質の音に耳を塞ぎ
天のほとりの木の骨たちを想った
ぱちぱち薪がはぜる 
痛みを削ってそっとくべる
暗闇を食べてゆく歌う炎の舌 
ひとところに魅入られ
熱く透き通ってゆく血潮 
そのひとしずくが永遠の種子と化す

いかめしく遠い空 節々をこわばらせた枯れ木たち
厳しい光に打たれて凛々と透き通ってゆく樹液 
薄墨の世界のはずれで寒々しい梢に 
あわあわしたと翡翠のほのおの輪郭が視える
その息吹く気配が辺りに満ち満ちてくる

深まれ大地の鼓動 生命は明日を希い 揺るぎのない成長を見せる
冬は はかない夢が信念にまで高められる季節
厳しい韻律を強いて 死の懐に似せた慈しみの大地を歩ませる
かたちのない愛しきものたちが 再び萌えいずるために 

草木のささやきが鳥たちを呼び起こし 
やがて 暁の脈が早まる 


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