天のほとりで /暁の脈が早まる/水無瀬 咲耶
薄青い白夜の冷気は鋭く 肺の在りかを貫き
遥かな地平線は緩やかに弧を描いていた
私は 天地の狭間を見定める弓のやじり
雪さえ降らない凍った大地を歩む日々を もういとわない
あれは長い午後のリハビリ室 硝子戸の向こうの空
古い記憶の層をさらうと ざわめきの輪郭が浮かび上がる
白樺の丘 幾千もの小さな緑の手のひらは
冷たい霜を噛み かじかんでこそ目覚めた
自分の色を思いだし 嬉々として大地の懐へと還っていった
木の骨はというと 尖った腕を虚しく宙に突き上げ
真昼の月のように部屋の水色の壁紙に溶け残っている
もはや歌うことができず がらんどうの心を
木枯らしが ただ吹き抜け
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