胃袋/鈴木(suzuki)
 
今日はもう眠いのでうたえません

代わりに一芸置いていくので

今日はそれにて平にご容赦を。

 詩人は一言そういうと、何かやわらかいものでも食べるような手つきで胃袋を一つ取り出して、よっこらせと床に置いた。ゼリーのようなぷるりふるりとした胃袋は、美味しそうに揺れていた。それはとても肉々しい質感を備えた淡い桃色をしていて、その甘い桃色が鼻腔を擽って仕方のないような香りを出しているように思えた。

それでは、今日はこれにておやすみ。

 一言詩人はお別れの言葉を告げると、胃袋を寝袋に一人さっさと寝てしまった。袋が詩人の輪郭を淡くかたどると、その口は固く閉じた。袋は半透明に濁って内
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