いいわけ/竜一郎
他意はないんです
他意はないんです
お茶をあなたの頭の上に零したのは
預言に従ったからです。
シャム猫の毛をバリカンで刈り取ったのは
貧乏人を見てムシャクシャしたからです。
トランポリンに鋏を入れたのは
跳ね落ちてケガを負ってほしくないからです。
雪が降るところでマンションを建てたのは
耐震構造を万全にする確認のためです。
ネズミを檻に導いたのは
猫の爪から救いたかったからです。
家屋に放火したのは
あなたが強盗に怯えてほしくないからです。
あなたの耳を切り落としたのは
騒音に苦しんでほしくないからです。
「世界にぼくたちだけがいればいい」のは
ぼくたちだけじゃないと楽しめないからです。
他意はないんです
本意はないんです
それが、<わたし>の優しさなんです。
あなたの恐怖を余さず包(くる)んでしまいたいんです。
と、隣の家の「善良なひと」が言っていたよ
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