三月のバラッド/狸亭
がつのった
神隠しにあったふたりはまもなく許されて対面
コ・サムイで別れていらい八カ月ぶり抱き合った
おれはおれの夢とおんなはおんなの夢と果てもない失楽園
バンコクからバスにゆられて二時間あまりの旅で
カンチャナブリに着くと一面燃えるような木々の緑だった
名所といっては七段からなるエラワン滝くらいのもので
三段目あたりで互いの夢のずれがふくらみ迷子になった
暑さばかりではない徒労感におそわれ不機嫌になった
連合軍共同墓地や竹製捕虜収容所を再現した戦争博物館
まんまんと流れるクウエー川にまぼろしのような血が散った
残虐な狂気の末裔とおだやかな小乗仏教の末裔の危うい交歓
「善くもなし悪くもなしですわい。」最終の行を目が追った
おれの愚行も似たようなものよ、ムッシュー・モーパッサン
カレンダーから切り抜いた数枚のニッポン風景をヤーに送った
西新宿の表示を見上げれば「二十一世紀まであと」１７３３
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