三月のバラッド/狸亭
 

モーパッサン『女の一生』一冊鞄に放りこんで
矢も楯もたまらずナリタを飛び立った
あたらしい眼鏡がなじまないので
いらいらするしエコノミーの狭いシートもきつかった
そのうち左手親指つけねがいたみだしこれにもまいった
こいつはたしかに痛風のはしり天罰覿面
正月の川崎大師でひいた今年のおみくじは「凶」だった
おもえば良いことのまるでなかった一月二月の場面

渋面のままたどりついた真夏の国の空港で
待ってるはずのヤーの姿がどこにも見えなかった
さすがに人影も途絶えがちな深夜の道を安ホテルまで
激痛をこらえながらタクシーをはしらせて行った
二間つづきのだだっぴろい部屋で不審がつ
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