それぞれの時間/石川和広
 



車いすを押して歩いた
そんな日があった
Oくんはひざかけをして
「石川さん、こんにちは」と云った

「こんどな お父さんと…奈良いくねん」
寒い道だ
空が透明な血のかたまり
ぼくは夢の中を歩いている気分だ

そうなんや ええなあ
車いすの背中から
ぼくはそう云って いくつかの
曲がり角を曲がって
段差でガタンとならないよう気をつけながら
グループホームについた

ただいま
靴を脱がせる
Oくんの指先がけいれんしている
バンドをはずし 上着を脱がせ
室内用車いすにうつしかえる
ちょっと気つけてや
「わかった」
それから部屋まで押していく

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