闘牛士/山田せばすちゃん
月曜の夜のことだ
遅番の妻を待って
一人で留守番をしている
俺の部屋のドアを
誰かがノックした
のぞき窓の向こうに立っているのは
刺繍と金モールもあでやかに
何を考えたものだか
バラの花まで口にくわえた
まごうかたなき闘牛士じゃないか
チェーンをかけたまま
恐る恐るドアを開けると
闘牛士は恭しく俺にお辞儀をして
金を貸してほしいと言い出した
私はスペインから日本に
闘牛を教えにやってきた
日系スペイン三世なのだけれど
誤って狂牛病の牛に
角で傷をつけられてしまった
きっと私も脳が萎縮して死ぬに違いない
だが私も闘牛士だ
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